札幌地方裁判所岩見沢支部 昭和41年(ヨ)29号 決定 1966年7月20日
砂川市日の出町第五アパート二四
申請人 藤見貞男
<ほか四名>
右申請人等代理人弁護士 南山富吉
同 岸星一
同 萩沢清彦
同 加藤康夫
同 内藤義憲
同 杉本昌純
同 水嶋晃
東京都中央区日本橋室町二ノ一ノ一
被申請人 合成化学産業労働組合連合東洋高圧労働組合
右代表者中央執行委員長 大久保良光
砂川市日の出町第三アパート一三
被申請人 津村三郎
<ほか四名>
右被申請人等代理人弁護士 土井勝三郎
同 益本安造
同 橋元平四郎
同 岩谷武夫
右申請人らからの頭書申請事件について、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
申請人らが共同して被申請人組合に対し金一〇万円の保証を立てることを条件として、その余の被申請人らについては保証を立てさせないで
一、申請人藤見が合成化学産業労働組合連合東洋高圧労働組合砂川支部の執行委員長たる地位を、申請人川端が同労働組合同支部の書記長たる地位を、その余の申請人らが同労働組合同支部の執行委員たる地位を、いずれも昭和四一年七月三一日まで有することを仮に定める。
二、被申請人出島は、同労働組合同支部の執行委員長として、被申請人塚田は、同労働組合同支部の書記長として、被申請人津村、同水上、同伊勢は、同労働組合同支部の執行委員として活動してはならない。
理由
一、当事者間に争いない事実および疎明により一応認められる事実は、次のとおりである。
被申請人組合は、本部のほか九の支部と三の準支部からなり、組合員約七、二〇〇名を擁する単一組織の労働組合である。被申請人組合砂川支部は、申請外東洋高圧工業株式会社北海道工業所の従業員約一、六五〇名をもって組織されている労働組合で、法人格を有している。申請人らおよび被申請人ら(被申請人組合を除く)は、いずれも右会社北海道工業所の従業員で、かつ被申請人組合砂川支部の組合員であって、昭和四〇年八月一日、申請人藤見は、同支部執行委員長に、同川端は、書記長に、その他の申請人らは、執行委員にそれぞれ就任したもので、その任期は、いずれも昭和四一年七月末日までである。
ところで、砂川支部の組合員である申請外星信雄ら四四九名の組合員は、同四一年七月一日執行委員長である申請人藤見に対し、砂川支部規約二五条二号に基づくものであるとして、執行委員長、書記長、執行委員の解任のための支部臨時大会の開催を要請したが、申請人藤見は、右要請は、右規約の当該条項に適合するものでないとの判断のもとにこれを拒絶した。そこで、右星信雄ほか砂川支部の組合員七二〇名(ほかに委任状を提出したもの二四九名)は、同年同月九日砂川市所在の東圧会館に参集し、被申請人組合中央執行委員長大久保良光出席のもとに右会合をもって砂川支部臨時大会が成立したものと宣言し、申請人ら役員の解任を附議してこれを可決し、ひきつづいて被申請人出島を支部執行委員長、同塚田を書記長、同水上、同伊勢、同津村を執行委員候補者として信認投票を行うこととし、同月一二日まで投票を継続して同日開票の結果、いずれも信認多数で右被申請人らはそれぞれ新たな役員に選任された。
二、よって判断するに、砂川支部規約二四条、二五条によれば、支部大会は支部執行委員長が招集するものとされているところ、前記砂川支部臨時大会なるものは、当時の支部執行委員長である申請人藤見の招集したものでないことは明らかであるから、この点において瑕疵があるものといわなければならない。被申請人らは、支部執行委員長である申請人藤見は、支部規約二五条二号に基づく組合員の適法な要請を無視し、また中央大会開催のための代議員選任を目的とする支部臨時大会を開催すべき旨の中央執行委員長の指示を無視しているのであるから、このような場合中央執行委員長において自から支部大会を招集しうるものである旨主張している。しかしながら、被申請人組合規約五五条によれば、被申請人組合は、支部大会の構成、運営については支部規約によることと定めており、これに基づく前記砂川支部規約二四条、二五条は、支部執行委員長をもって支部大会の招集権者と定めているのであって、これによれば、結局、被申請人組合は、組合規約をもって右支部大会の招集権限を支部執行委員長に委譲したものと認めるべきであり、しかも、砂川支部が被申請人組合本部の機関と対応するような諸機関を備え、かつ独立した会計をもち、申請外会社北海道工業所との間に労働協約締結権並びに団体交渉権を有する等、独自の活動をなし得る一の組織体たる性格を有することは、組合規約、支部規約、および労働協約の諸規定によって明らかであることに鑑みれば、たとえ、被申請人組合が単一組合であって、本部と支部が上部機関、下部機関の関係にあることを考慮し、また、被申請人ら主張のような事情があるとしても、規約に別段の定めがない以上、中央執行委員長において自から支部大会を招集する権限があるとすることはできない。組合規約四九条の中央執行委員会の緊急事項の処理に関する規定は、本来中央大会または中央委員会の決議を経て執行すべき事項について緊急の場合にあらかじめ右決議を経ることなく、中央執行委員会において事務を処理しうる権限を認めたものにすぎないし、同規約五七条の中央執行委員長の組合業務の統轄に関する規定も、中央執行委員長の特別の執行権限を定めたものではなく、これらの規定のみをもって、中央執行委員長に他の機関に委譲された権限の行使までをも許容したものであると解することはとうていできないし、他に規約上、中央執行委員長に支部大会を招集する権限が存することをうかがうに足る規定は見当らない。
右のように、前記砂川支部の臨時大会と称する大会は、招集権者が適法に招集したものとは認め難く、他に右大会が有効に成立したと解すべき事情も認められないから、右大会は、正式な支部大会でないというほかはなく、この会合においてなされた申請人らの解任の決議は無効であり、したがって、右解任を前提とする被申請人出島、同塚田、同津村、同水上、同伊勢ら各役員及び委員の選任の諸手続もまた当然に無効であるといわなければならない。なお、申請人らは、被申請人組合に対しても同組合砂川支部の執行委員長、書記長及び執行委員たるの地位の確認を求めるものであり、右各地位は被申請人組合の制定した組合規約並びに支部規約に基づくものである以上、右各地位は単に同組合砂川支部との間のみならず被申請人組合との間にも法律上の関係を有するものであることは明らかで、被申請人組合において、申請人らの右各地位を争っていることは疎明により認められるから、申請人らは、被申請人組合に対し右各地位の確認を求める法律上の利益を有するものというべきである。
そして、被申請人出島、同塚田、同津村、同水上、同伊勢らおよび被申請人組合は、いずれも申請人らが前記砂川支部臨時大会において解任され、被申請人出島が同支部の執行委員長に、同塚田が書記長に、同津村、同水上、同伊勢らがいずれも執行委員に選任されたと主張し、かつこれを前提として行動していることは疎明により認められるから、申請人らは、被申請人らに対し本件仮処分を求める必要性があるというべきである。
以上のとおりであるから、本件申請を理由ありと認め、民事訴訟法七六〇条に則り主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宇野栄一郎 裁判官 上谷清 裁判官 荒井史男)